きっかけは定期配送サービス。
そこからお客様のニーズが見えてきた。
-「コピー用紙自動配送サービス」とはどのような背景から生まれたサービスですか。
今回のプロジェクトは2段階に分かれていて、そこから説明した方がわかりやすいかもしれません。アスクルでは、これまでコピー用紙の注文を受けてからお手元に届けるという形をとっていたのですが、お客様が注文をするときに、どのくらいコピー用紙が残っているのかという確認作業やその都度注文するのが手間というお声をいただいていました。そうしたニーズに対してすぐに「コピー用紙自動配送サービスを始めよう」となったわけではなく、まずはお客様のご指定したサイクルで設定した量の商品が届く、定期配送サービスの導入から始めました。
定期配送を始めたのが2017年9月からで、自動配送をスタートさせたのが2019年2月でした。もともと今回のプロジェクトありきで始まったわけではなく、定期配送を行っているうちに、お客様のニーズがより詳しく見えてきたというのが正解かもしれません。
定期配送だと、お客様がコピー用紙の残量を都度確認する必要がないので、注文の手間は省くことができました。しかし、お客様のコピー用紙の使用量は月ごとに変動するため「先月はイベントでたくさんコピー用紙を使ったけれど、今月は何もなくてコピー用紙の在庫が溜まってしまった」といったという声が届いていました。それならば在庫まできちんと管理できるシステムを開発できないかと考えていたところ、金子さんがスマートショッピング社様のスマートマットを紹介してくれ、活かせるのではと思いました。
もともと定期配送システムの仕組みづくりにも携わっており、コピー用紙のストック量が時期によって安定しないという課題については、堀田さん、竹久さんから聞いていました。定期配送そのものは、お客様に好評いただいているので、そのサービスを進化させるならこのスマートマットを活用するのが面白いのではないかと、企画化させてもらいました。
多くの部署を巻き込むことで
サービスの完成度が高まっていく。
-プロジェクトはどのように進められたのですか?
アスクルは物販がメインの会社なので、IoT商品、サービスの開発は今までやったことがありません。サービスを形にしていくには各部署との連携が欠かせませんが、いざサービスが始まった時に問題が起こらないよう、それぞれ独自の視点から意見を出してくれます。それらをどのように解決するか、お客様のニーズを汲みつつ、できること、できないことの着地点を見出しながら進めていきました。
竹久さんが言うように、前例のないサービスでしたので各部署に内容を説明して、巻き込みながら進めることがポイントだったと思います。サービスフロー、契約書もすべてゼロベース。たとえば、このサービスの利用料をいくらに設定すればサービスとして成立するのかという投げかけなどもありました。
そうですね。サービス利用料をいくらに設定すればいいのかは悩みました。現在は、スマートマットは無料、サービス利用料を300円、さらにサービスを利用されるお客様にはコピー用紙を割引価格でご提供しています。一定量注文されるお客様にはお得になるサービスなのですが、実際にそこに魅力を感じていただけるかは不安でした。
システム面においても、ウェブサイトで注文をすると必ず最後に注文内容を確認していただく必要がありますが、自動配送の時はどうすればいいんだ、という意見もありました。結果的には、最初の申し込みの時に同意いただくことになりましたが、このように、新しいことをやる上では解決しなければいけない課題が存在します。自分たちに見えていない課題を各部署からもらえるのは非常にありがたいことでした。また、今回協業いただいたスマートショッピング社様は、ハードウェアを提供してくださる重要なパートナーでしたが、さまざまな課題に対しスピーディかつ前向きに取り組んでくださって非常に助かりました。
超えなければならないハードルやリスクヘッジのための意見に対し、収拾をつけるのは大変でしたが、このプロジェクトに関係した人すべてが「お客様のために何をすべきか」という考え方は共通して持っていたと思います。だからこそ、最終的にお客様に安心してお使いいただけるサービスにつながったと思います。
求められているという確信が
このプロジェクトを動かした。
-プロジェクトを進める上でのやりがいはどんなところに?
やはりアスクルとしてIoTサービスは新たな試みで、社内としても新しいことを始めていかなければならないという機運が高まっていた中でのプロジェクトでしたので、そういう意味でやりがいがありました。また、定期配送で実績を残せたので、自動配送も必ず成功するというポテンシャルを感じながら取り組んでいました。
大きなオフィスならば在庫が少なくなってきた時に発注するという流れはできていますが、例えば訪問介護を行なっているような事業所は、従業員の方がオフィスに常駐している時間が少ないので、うっかり切らしてしまうことがあると聞いていました。そういうお客様は少なくないと思いますので、サービスでお客様の業務を手助けできることはモチベーションのひとつだったのかなと思います。
発注を担当されているお客様は在庫管理することにプレッシャーがあり、コピー用紙のようにあって当たり前のものがなくなっていると責任を感じると思います。このプロジェクトを始める前から、仕事の手間を省くために「注文レス」という概念を作っていくことも大切だと考えていましたが、実際、自動配送サービスを2ヶ月間テストした時に、モニターのお客様から「便利なので利用を継続したい」という声をたくさんいただきました。やはりこのサービスは求められていたものなのだと感じました。
一つの前例を作れたことは
お客様にも、アスクルにも意味がある。
-プロジェクトを終えて、どんな感想をお持ちですか?
コピー用紙以外にも定期配送している商品はありますので、IoTサービスを将来的に派生させていくための可能性を示せたのではないかと思います。今回は竹久さんが頑張ってくれましたが、現在も若い社員が様々なプロジェクトに取り組んでいるところです。また、各部署の皆さんには、ポジティブなスタンスで取り組んでいただけたので、プロジェクトが進むにつれて徐々に部署の垣根を超えた「チーム感」が出てきたのも面白かったですね。
堀田さんがおっしゃったように、前例ができると、次に何かを始めようとした時に多くの課題を解消した状態でチャレンジができるようになります。その点でも有意義だったと思います。アスクルは物販の会社というイメージが強いのですが、今回のプロジェクトは、そういった既成概念を取り払って取り組めたのも大きいと思います。お客様のために何ができるのかをまっすぐに見据えたプロジェクトだったのではないでしょうか。
社内で誰もやったことのないものを作り上げていく、産みの苦しみを知りました(笑)。ただ、問題にぶつかったときこそ周りの協力がすごく力になることを学びました。今後新しいサービスを立ち上げる時にもこの経験は役立てられるのではないかと思います。一方でこの自動配送サービスはお客様のために進化する過程にあると思っています。たとえば、接続環境は無線LANとつなげて設定しなければ利用できないのですが、環境が整わず、サービスの利用を辞退するお客様もいらっしゃいました。今後はそういった課題を解消して、より多くのお客様にサービスを利用していただくことが次なる挑戦だと思っています。